1800年代の日本語聖書(1)

ヨハネによる福音書1章1節のテオスの訳語

プロテスタント宣教師によって作られた初期の聖書の日本語翻訳を見ると初期の翻訳者が聖書の基本的な用語を翻訳するのにどんなに苦労したかが分かります。このセクションでは、初期の日本語訳で「ロゴス」と「テオス」という用語が表示されるヨハネの福音書第1章第1章を比較してみます。

  1.  1837年(推定)のギュツラフ訳では次のような翻訳文になっています。

     

    ハジマリニカシコイモノゴザル。コノカシコイモノゴクラクトモニゴザル。コノカシコイモノワゴクラク。

     

    鈴木(1977 藤田(編) p.p.302)は、「ロゴス」と「テオス」の訳語として「ゴクラク」が選ばれたことにより、3人の日本人助手がギュツラフの説明から神の概念を理解するのにいかに苦労したか推察できるとしています。もしこの日本人助手たちがその概念を理解していたら、彼らは「神」か「ホトケか仏」のどちらかを選んだことでしょう。これは、聖書の神と日本語の神との間の隔たりがどれほど大きかったかを示しています。

     

  2. 1855年のベッテルハイムの翻訳。

     

    ホジマリニ カシコイモノオテ、コノカシコイモノヤ シャウテイトトモニウォヌン、コノカシコイモノヤ・シャウテイ

     

    この翻訳では、テオスや神、標準的な日本語のジョウテイ、中国語の上帝の訳語として沖縄の方言の「シャウテイ」という言葉が使われました。しかし、この翻訳は1873年後半には次のように改訂されました。

     

    ハジメニカシコイモノアリ カシコイモノワカミトトモニイマス。カシコイモノワナワチカミ

     

    「シャウテイ」という用語が「カミ」に改訂されました。これは、1855年から1873年の間に「カミ」という用語がテオスの標準的な翻訳になったことを示しています。

     

  3. ヘプバーン/ブラウンの翻訳(1872年)。

    元始に言霊あり言霊ハ神とともにあり言霊ハ神な里

    (読み仮名)

    ハジメニコトダマアリ コトダマハカミトトモニアリ コトダマハカミナリ

     

    この時までに、彼らはテオスまたはゴッドの訳語として神という用語を固定の訳語としています。

    鈴木(同 p.p.303)は、C.M.ウィリアムの十戒(1861年推定)の翻訳が「神」を採用し、J.ゴーブル訳のマタイの福音書(1871年)も「神」を使用したと紹介しています。以上のことから推察すると、1860年頃には既に「神」という用語が定訳として選ばれていたようです。